〔クリスマスの贈り物〕
時はクリスマスイヴ。
もう空は星々の輝きをはっきりと伝えていると言うのに、煌く華やかなイルミネーションが彩る街はますます活気を増している。明るいテンポで流れる音楽やベルの音は、ざわめきにかき消されそうになりながらも存在を主張し続けていた。
そのメインストリートの中心部に位置する巨大なクリスマスツリーの下、恋人たちの待ち合わせ場所にもってこいのその場所には、大きな紙袋を持ってじっと立っている青年の姿があった。
青年は時折ちらちらとストリートに視線をやりながら、どこか落ち着かない様子で立っていた。どこか、居心地悪そうにも見える。
「参ったな……」
困惑しきった青年の口からため息がこぼれた。ついでに、ずり落ちそうになっている紙袋を抱えなおす。これがクリスマスプレゼントに姿を変えてくれないか、なんて考える自分が情けない。
プレゼントを渡したい、と言う気持ちはあるのだ。けれども、結局、渡すものが決められなかった。あーでもない、こーでもない、と店中をうろうろしていた男はさぞかし不審であっただろうが。彼女のほしいものがさっぱりわからなかった。
彼女は滅多に物を望んだりしない。神に仕える身である、と言う事も影響しているのだろうが、はっきりきっぱり物を言うマゼンダよりずっと望みがわかりにくい。……最も、マゼンダの事も決して良く知っているわけではなかったが。
これも、日ごろの自分があまり人のことを気にかけないからだろうな、なんて思うにつけても落ち込み度はひとしおである。
しかし、もう待ちあわせの時間も近いし、今更買いに行く事もできない。何て言って謝ろうかと思うと、今から気が重い。
『頑張ってきなさいよ!』
背中を押してくれた仲間の姿が頭をよぎるが、そういわれても、どうしようもない事はあるのだ。と言うか、この危機さえ乗り越えられたら、あとは正直、彼女らに説教を食らおうが体罰を受けようが、もうどうでも良いとすら感じる。神も仏も何の役にも立ちはしない。むしろ、魔王の城に単身乗り込んでいくほうが楽かもしれない。
どんどんマイナス思考に落込んで行き、どんよりとした空気を纏っているジルバをツリーの裏側からじっと見ている人影があった。
テミだった。待ち合わせの30分も前に来たジルバ以上に早く来て、様子を伺っていたのだ。
『あいつからは言い出さないだろうから』と、お膳立てしてくれたパーティの面々(女性陣)の助言の正しさに思わず笑い出しそうになりながら、テミは悩める恋人を見つめていた。
彼が手にしている紙袋はおそらく、明日のパーティー用にと頼まれたものだろう。それ以外は何ももっている様子は無いから、クリスマスプレゼントの類は無いに違いあるまい。けれど……、とテミは思う。そして、ただ黙って微笑んだ。
カラーン、カラーン、と重々しい響きを持った鐘が鳴った。待ち合わせの時間だ。テミはぎゅっとこぶしを握って気合を入れると、ジルバのほうに向かって駆け出した。
「すみません。お待たせしてしまいました」
涼やかな声が聞こえた。
ジルバがはっとして振り向くと、そこにはにこにこと微笑む娘の姿があった。
「あ、いや。そんなに待ってないから」
何となく気まずくて、視線が合わせられない。でも、早く言ってしまわなければなるまい。ジルバは腹をくくった。
「あのさ、テミ……」
「何ですか?」
「あ、俺、実は……クリスマスプレゼント、用意できてなくて……」
しどもどろになりながら、何とかジルバは言ってのけた。
「ごめん! 本当に悪かった!」
紙袋を抱え込みながら無理やり手を合わせ、頭を下げるジルバの姿は何ともユニークなものであった。テミは一瞬、きょとんとしたが、すぐに微笑んだ。
「顔、上げてください」
「でも……」
「――ジルバさんは考えてくれたのでしょう?」
「え?」
思わず、眼を丸くしてテミの顔を見つめた。テミは、ジルバの顔を覗き込んで話を続けた。
「わたしに、何かを贈ってくれようとしたのでしょう?」
「あ、ああ……」
「だったら、それだけで十分です。――だって、私は『気持ち』と言う何よりも素敵な贈り物をいただいているもの」
相手に贈り物をしようと思うのならば、その時は贈る相手について考えているのだから。『自分』のことをどれくらい思ってくれているのか、だなんて全然分からないけれど、それを考えている間は少なくとも自分のことだけを考えてくれているはずだから。
それがわかれば十分だった。
「……でも、来年はちょっとだけ期待してます」
小さく、小さく付け加えられた言葉。ジルバは破顔した。
「ああ」
来年もこういう関係を築き上げていければ良い。二人の願いはぴたりと一致しているから。だからこそこういうイベントのひとつひとつですら逃したくないと思うのだから。
「それで、これはわたしからのプレゼントです」
そういって、ふわりと掛けられたマフラーは、少し編目が不揃いだったが、とても温かかった。ジルバはテミを引き寄せた。二人の影が重なり、ひとつとなった。
その温かさが、少しでも伝わるように――………。
<あとがき>
以前に春吉ちゃんに捧げさせていただいた誕生日プレゼントを大幅修正いたしました。
……でも、たぶん以前のものに気づかれていないと思われますので、短編集にアップしてありますが、春吉ちゃんのみお持ち帰り可です。ちなみに、返品、書き直し依頼も受け付けますのでなんでもどうぞ。
お互いの事を思いあっていながら、何とも不器用で、少しギクシャクしてしまうような、そんな二人を目指してみました。……うまく行っていないというのは気のせいではない……のでしょうね(がくり)
マゼンダとあわせるとガキ大将になってしまうジルバですが、テミが相手だと途端に悩める男となるようです(笑)……私の中でジルバ像がほとんどできていないと言う事も原因なんでしょうが、その分臨機応変、便利な人となりつつあります。昔は絶対に書けない人(最も書くのが苦手な人)だったのにね。
しかし、わたしはよくよく贈り物が大好きなようです。今回ではっきりとわかりました。いつも誰かに何か贈らせている気がします。あけるときの楽しみ、渡されたほうの喜ぶ顔……こういうのはとても楽しいものですから、ね。と言う事で。
では、思いっきり季節外れの代物でした(笑)
2006年5月3日 掲載
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